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何をしているのかな?漢方の診察は 〜脈診てお腹診て、どうするの?〜 2
金匱会診療所名誉所長 山田光胤
風邪の引き初めで、寒気と熱感や、頭痛、項背のこり等があれば、葛根湯を飲んで、少し汗をかくと直ぐに治ります。4、5日経つと咳や痰が出て、口が苦く、嘔気がして、食欲がなくなります。熱や炎症が、上気道や気管支に波及し、同時に胃炎を生じたからです。この時は、葛根湯や総合感冒薬などを飲んでいると食欲が益々減退し、反って具合が悪くなります。こういう時は気道の炎症を除き、胃炎も治す漢方薬の小柴胡湯を飲むと良くなります。
ただ、漢方の診療所へ来られる患者さんは皆、乗り物に乗って離れた所から来られるので、大抵は風邪を引いてから何日か経って長引いた状態で来られます。それで小柴胡湯で直ぐ治るというわけにはいかず、数日はかかります。
自慢ではありませんが、大分から隔週で漢方を研究に来る内科の医師が居ます。10年程前、『風邪は漢方で2日で治りますね』と云うので「そうですよ」と答えたところ、その後『一般医師の先生は、風邪の患者は1週間以上通院してくれますが、私の所は2日で治ってしまうので、私の収入は減りました』と訴えられ「これは困ったな」と申しました。ところが、数年経った頃『お蔭でこの頃は、地元医大の内科教授が、治り難い、手に余る患者は皆、私の所へ廻してくれますので、収入に困らなくなりました』と報告され「やれやれ」と思いました。
ただ此処で、僭越ながらご注意申します。脈を診て浮脈と分かった時、脈に力があって、患者さんに汗が出ていない時は、葛根湯が良いのですが、脈が浮でも力のない弱い脈で、患者さんに何となく汗が出ているような人には、葛根湯は合いません。飲むとひどく発汗して、体が脱力したりして具合が悪くなります。それで、そのような人には、葛根湯より発汗力の弱いマイルドな薬の、桂枝湯等を用いるわけです。
又、風邪を引いて数日経て、咳、痰が出て、食欲が減退した時期に、脈が沈脈でも弱く、細い脈で、頭や頚から汗が出たり、軽い動悸や口中の乾燥があったりするのは虚弱体質の人ですから、小柴胡湯は飲ませられないので、マイルドな柴胡桂枝乾姜湯その他の薬を用います。これらの手技を虚実に対応するといい、医師の修業の対象です(漢方の診察3につづく) |