何をしているのかな?漢方の診察は 〜脈診てお腹診て、どうするの?〜 3
金匱会診療所所長 山田光胤
ところで、風邪を引いた時、熱感が起きず、寒気ばかりして、顔は蒼白くて、時には鼻水が出たりする人がある。その時、脈を診ると、指に力を入れて押さえないと触れない沈んだ脈で、且つ、細くて力が弱い。これは、体内が冷えている風邪で、陰証という。
こういう患者には葛根湯も桂枝湯も合いません。附子を配合した処方剤を選んで投薬します。それで、体が温まって元気が出て、風邪が治ります。この時の脈は、沈の脈ですが、小柴胡湯のような力のある脈ではありません。附子は、成分にアコニチンが含まれているので、使用するには注意を要します。
さて、風邪を引いて4、5日経った頃、お腹に触れると、肋骨の下に硬い所が出て、押さえると痛がったり、苦しがったりする症状を漢方で胸脇苦満といいます。この症状は、その近くにある上気道、気管支、胃などに炎症があるので、腹壁、お腹の筋肉に反射が出ているものです。
この場合は、病気が治ると、お腹の症状は消失します。このお腹の症状は、風邪のように熱が出る病気ばかりでなく、熱が出ない慢性の病気でも現れます。例えば、慢性肝炎にも屡々みられます。肝臓も、肋骨弓の近くにある内臓だからだと思われます。その時、腹筋の緊張力が強い人は実証で、小柴胡湯の合う場合です。けれども、腹筋の緊張力が弱い人は虚証でもっとマイルドな弱い薬を用いなければなりません。これを間違えると、副作用が起きます。
随分以前でしたが、私の医大の同級生が、B型肝炎に罹って、母校の大学病院に8、9ヶ月間入院して治療したけれど、良くならないと云って、漢方治療を希望して来ました。その人はお腹に胸脇苦満が現れており、体格は大きいですが、腹筋の緊張力が少し弱いので、小柴胡湯より少しマイルドな、柴芍六君子湯を投薬しました。
熱心に漢方薬を服用して、3年程経った頃、病気がすっかり治り、B型肝炎ウィルスの抗体も出来ないといっていました。喜んだ友人は、医学博士ですが、それ以後漢方医学をよく研究して、専門の医師になり、某漢方診療所の所長を10年近く勤められました。
胸脇苦満という腹筋の症状は、実は私が長年持っています。小学生だった頃に、慢性腹膜炎に罹りまして、大病院では治らず、大塚敬節先生に漢方で治して頂いたのですが、腹膜の炎症を起こしていたと思われる部分が、治る時に石灰沈着をしたらしいのです。
今でも、お臍の上辺りに、X線に写る、煎餅の様な、白い丸い部分があります。そこから影響で胸脇苦満が現れているらしいです。右の肋骨の下の腹筋の一部に、少し硬くて、押すと痛い処があります。遠い以前になりますが、まだ若年の頃、練習に同門の医師達と、お互いに腹診をし合ったことがありました。或友人は、私のお腹に触り、肋骨の下を押して、私が痛がると『あっ、胸脇苦満だ』と云って喜びながら、何回も強く押すので、私は閉口しました。その友人も今では、漢方の大家になっています。
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