漢方治療の実際
★ 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、原因不明の大腸粘膜の慢性炎症で、大腸にびらん、潰瘍がおこります。
症状は、下痢、粘血便、腹痛などで、寛解と再発を繰り返します。
原因としては、細菌感染説、アレルギー説、自己免疫説とともに心因説が考えられています。ストレスで発症したり、症状が悪化します。
疾患の性質上、多くの場合虚証としての治療が必要になります。
潰瘍性大腸炎の頻用処方
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
中間症からやや虚証に用いる。
腹診上、季肋部の抵抗圧痛(胸脇苦満)がみられる。
精神的なストレスによるものによい。
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
やや虚証に用いる。
腹痛があり、しぶり腹で、便意の後にすぐにまた便意を催し、さっぱりしないもの(裏急後重)に用いる。
胃風湯(いふうとう)
虚証に用いる。
炎症が直腸にあり、粘血便で、下痢が長く続いているために衰弱しているものに用いる。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
慢性化して体力が低下し、貧血気味で疲労感の強いものに用いる。
出血のある場合は、艾葉、阿膠など止血作用のある生薬を加味する。
真武湯(しんぶとう)
陰証に用いる。
水様の下痢で、裏急後重の無い場合に用いる。
茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)
陰証に用いる。体力が甚だしく低下し、衰弱している場合。
激しい下痢があり、手足が冷え、煩躁の状態がある。
潰瘍性大腸炎の症例
症例 30才男性
主訴:下血。
現病歴:以前から血便があったが、X年5月潰瘍性大腸炎の診断を受ける。現在は症状強くはないが、プレドニン5mg、ペンタサ6T、ビオスリーを処方されている。現証:身長170cm、体重60kg。腹力:弱、腹筋全体が緊張している。右に極弱い胸脇苦満あり。脈:沈小
経過:初診X+1年3月
胸脇苦満、体のダルさなどを目標に補中益気湯を処方。4月:血便あり、プレドニン3Tに増量された。腹痛はほとんど無い。真武湯に変方。6月:粘液は減ったが血便は続き、徐々に体重が落ちている。茯苓四逆湯に変方。その後食事が進み、出血も減少してきたが、8月になっても下血は続いている。体調は良い。体重は1kg減少。茯苓四逆湯加艾葉とする。出血は一時消失したが、再発し、10月頃より落ち着いてきた。翌年2月:それまでは落ち着いていたが、下血再発。4月:出血、粘液便続いている。十全大補湯加艾葉阿膠に変方。変方後2日で下血は無くなり、体調は非常によい。その後同方継続し、症状は全く無く、病気になる前の体調を思い出したという。
考案:胃腸が非常に弱く、四物湯の配合された十全大補湯を避けて真武湯、茯苓四逆湯などを用いていたが、結局十全大補湯加味で著効を示した。なお、本患者の兄はアトピー性皮膚炎で通院しており、十全大補湯加荊芥連翹を中心に治療をしている。
この症例のように私の経験では潰瘍性大腸炎には十全大補湯加味が奏効する場合が多いと感じています。効くときには非常に早く良く効くことがあります。
金匱会診療所所長
山田享弘