漢方治療の実際
★ 慢性肝炎
漢方治療を希望して来院される患者さんの中には、健康診断で肝機能障害を指摘されたが、なにも自覚症状は無いといった方がいます。この場合、現代医学的な原因と病態を診断することは重要なことで、病気によっては漢方よりも現代医学を優先させなければならない場合もあります。
漢方の診断には、自覚症状と望診、脈診、腹診といった他覚所見が必要となりますが、特別な症状のない場合は特に腹診所見が重要となります。慢性肝炎では多くの場合腹診上、胸脇苦満(きょうきょうくまん)と呼ばれる季肋部の抵抗と圧痛が認められますが、この腹証があった場合には柴胡(さいこ)という生薬が配合された薬方(柴胡剤)を用いることになります。柴胡剤にも実証むけの方剤から虚証むけの方剤まで色々な種類の薬方がありますが、この虚実も主に腹診で決めてゆくことになります。
慢性肝炎の頻用処方(胸脇苦満のある場合)
実証 大柴胡湯(だいさいことう)
大柴胡湯合茵蔯蒿湯(だいさいことうごういんちんこうとう)
中間症 四逆散(しぎゃくさん)
小柴胡湯(しょうさいことう)
小柴胡湯合茵蔯蒿湯
柴苓湯(さいれいとう)
小柴胡湯合茵蔯五苓散(しょうさいことうごういんちんごれいさん)
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
虚証 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)
加味逍遥散(かみしょうようさん)
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
慢性肝炎の治療には主に上記のような薬方を、虚実、腹証に合わせて用います。
また、インターフェロンなどを行う場合には、漢方の補剤と呼ばれる、体力、抵抗力を補ってゆく薬方を併用すると、副作用の軽減等に有効です。
金匱会診療所所長
山田享弘