漢方治療の実際

★ 蕁麻疹

 蕁麻疹の漢方治療では急性のものと、慢性のものとでは用いる薬方がややことなる場合が多くみられます。
 急性の蕁麻疹では、発表剤である麻黄の含まれた処方や、下剤である大黄の含まれた処方が用いられることが多く、また食餌性(魚)の蕁麻疹では紫蘇葉の含まれた香蘇散などが用いられます。
 慢性の蕁麻疹では腹診上、胸脇苦満が認められることが多く、柴胡剤を用いる場合が多くなります。
 急性でも慢性でも便秘をしている場合には大黄を加味して用います。
 私見ですが、茵蔯蒿の含まれている処方、また茵蔯蒿を処方に加味すると蕁麻疹に有効な場合が多いと思われます。

 急性蕁麻疹によく用いられる薬方

(1).葛根湯
(2).香蘇散
(3).橘皮大黄芒硝湯 
(4).調胃承気湯
(5).白虎湯
(6).茵蔯蒿湯 
(7).茵蔯五苓散

 慢性蕁麻疹でよく用いられる処方例(筆者の場合)

 茵蔯五苓散:とりあえず第1選択
 茵蔯蒿湯:実証で便秘のあるとき
 大柴胡湯合茵蔯蒿湯:実証で胸脇苦満あり便秘のとき
 防風通聖散合茵蔯蒿湯:実証で肥満
 十味敗毒湯加連翹茵蔯蒿:虚実間証で胸脇苦満
 柴胡桂枝湯合茵蔯五苓散:やや虚証で胸脇苦満、心下支結、水毒傾向
 加味逍遥散合茵蔯五苓散:虚証で、胸脇苦満と瘀血の腹証がある場合
 桂枝加黄耆湯加茵蔯蒿:虚証
 桂枝加黄耆湯合茵蔯五苓散:虚証で水毒傾向のあるとき
 その他 駆瘀血剤などを合方することも

 慢性蕁麻疹の症例

症例 25才 女性

主訴 慢性蕁麻疹、鼻の奥の痛み

現病歴 11才時より慢性蕁麻疹発現。毎日出るが、ひどい時は全身に出て仕事を休まなければならない。漢方薬局より柴胡桂枝湯加薏苡仁、桂枝茯苓丸加薏苡仁、柴胡桂枝湯加芍薬茵蔯山梔子、十味敗毒湯加黄耆茵蔯蒿黄柏などを出されているが、先週より悪化し仕事を休んでいた。
また、低気圧などの時に、鼻の奥から目の奥にかけて痛みが出る。耳鼻科では副鼻腔炎などはなかった。
平成X年8月 金匱会診療所初診。

現証 身長157cm、体重49kg 脈証:沈、小 腹証:弱 右胸脇苦満、右小腹鞕満 舌:白苔あり

経過 加味逍遥散合茵蔯五苓散投与。
2週間後再診、二日間服用後蕁麻疹は消退し、その後出ていないという。しかし、目の奥から鼻にかけての痛みがありつらい。
前方と桂姜棗草黄辛附湯を一日づつ交互服用とする。
さらに2週間後、蕁麻疹はその後でていない。目の奥の痛みも消失している。
前二方交互服用継続。

このように、漢方が著効する場合は非常に短期間に症状の改善が認められます。
しかし、慢性蕁麻疹の治療は現代医学同様、漢方でも難渋する場合があり、漢方医の腕が試される疾患の一つでもあります。

                                           金匱会診療所所長
                                                 山田享弘