漢方治療の実際
★ 慢性腎炎・ネフローゼ症候群
慢性腎炎、ネフローゼ症候群などの腎疾患は、漢方的には水毒(水分の代謝障害の総称)によるものが中心となります。従って、治療に当たっては利水剤が基本になります。其の代表は五苓散(ごれいさん)ですが、漢方では個々の証に従って瘀血があれば、利水剤と駆瘀血剤を組み合わせて用いたり、腹診で胸脇苦満(季肋部の抵抗圧痛)がみられれば柴胡剤と組み合わせて用いたりとなります。
慢性腎疾患の頻用処方
〔利水剤〕
五苓散(ごれいさん)
利水剤の代表的方剤で、口渇があり、尿量が減少している場合に用いる。
茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)
五苓散に茵蔯蒿(いんちんこう)を加えた方剤で黄疸、肝機能障害、蕁麻疹などがある場合に用いる。
猪苓湯(ちょれいとう)
利水剤で、下腹部に炎症(熱)のある場合に用いる。
分消湯 (ぶんしょうとう)
腹水や浮腫があるが、まだ体力が衰えていない実証の場合に用いる。
補中治湿湯(ほちゅうじしつとう)
慢性化して体力が衰えてきた虚証の場合に用いる。
ネフローゼ症候群の症例
症例1 33才 女性
病名:ネフローゼ
現病歴:2才時よりネフローゼあり、治療を受けている。現在はプレドニン5mg服用中。8年前より生理前になると膀胱炎となり抗生剤投与される。生理は40日以上の周期。平成X年12月初診
現証:身長161cm、体重47kg 虚証。
脈証:沈、小 腹証:腹力弱、右下腹に軽度抵抗圧痛、振水音(+)
食欲、便通は普通。手足が冷える。疲れ易い。
経過:初診時 当帰芍薬散合猪苓湯加附子投与。
翌年.1.10 最近背中が温かくなった。同方継続
1.24 1月16日膀胱炎になり、現在も排尿前に痛みがある。同方継続。
2.7 膀胱炎治まらず、抗生剤服用中。前方加人参とする。
2.21 排尿時痛あるが、泌尿器科では異常なしといわれた。プレドニン4mgに減量。
3.7 排尿前の痛みはあるが、疲れにくくなった気がする。泌尿器科にて間質性膀胱炎疑いと言われた。前方継続
3.28 排尿時痛軽減してきた。痔核が出てきた。前方加升麻0.5とする。
4.16 膀胱炎起きていない。プレドニン3mgへ減量。最近少し浮腫がでる。前方継続。
6.1 最近不正出血が多い。前方加艾葉とする。(当帰芍薬散合猪苓湯加人参、升麻、艾葉、附子)
7.6 少し前から仕事をすると尿蛋白が1+~2+になる。疲れ易い。補中益気湯合猪苓湯去甘草とする。
8.3 疲れが取れてきた。プレドニン2mgとなる。
11.2 プレドニン1mgとなった。いつもはここまで減らすと再燃する。補中益気湯合猪苓湯加附子去甘草とする。
12.12 膀胱炎、頭痛とも起きていない。プレドニン中止となった。プレドニンが切れたのは10年ぶりと喜ぶ。前方継続
翌年1.11 膀胱炎になりそうな感じになったが、自然に治まりそうとのこと。同方継続
考案:小児期よりのネフローゼで10年間プレドニンを服用していたが、約1年の治療でプレドニンを一応切ることができた。初めは腹証から当帰芍薬散合方とし、途中から疲労感が強いので補中益気湯合方とした。初めはなかなか種々の症状が取れなかったが、ねばり強く服薬を続けてくれたので、ようやく全身状態が改善してきたようである。
金匱会診療所所長
山田享弘