漢方治療の実際
★ 高血圧
漢方の治療では、血圧が高いからといって、血圧を下げる薬を用いるのではなく、まず全身の調和を整えることを主眼とします。血圧を下げる手当をしなくても、全身の調和が整ってくれば、血圧は安定してきます。このような立場にある漢方では、どのような高血圧症の患者さんにも共通して用いる薬というものはありません。また、血圧降下剤ではないので、いくら長期間飲んでも、血圧が下がりすぎるということはないし、不快な副作用を呈することもありません。
実証ないし実証に近い中間証には、瀉剤を、他の中間証ないし虚証には、補剤を用いるのが原則です。さらに、胸脇苦満(きょうきょうくまん・季肋部に現れる抵抗と圧痛)があれば柴胡剤、心下濡(なん・心下部に軟らかい抵抗のあるもの)には瀉心湯類、瘀血には駆瘀血剤を運用します。
高血圧では諸薬方に釣藤、黄耆を加味する場合が多く、また、金匱会診療所ではインド蛇木が使用できるので、インド蛇木の加味は高血圧に非常に有用です。
高血圧の頻用処方
実証 大柴胡湯(だいさいことう)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
中間証 釣藤散(ちょうとうさん)
七物降下湯(しちもつこうかとう)
虚証 加味逍遥散(かみしょうようさん)
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
陰証 八味地黄丸(はちみじおうがん)
真武湯(しんぶとう)
高血圧の症例 柴胡加竜骨牡蛎湯加味
症例:50歳代 男性
病名:高血圧
現病歴:以前より健診で血圧が高めであると言われ、経過観察していたが、平成17年より最低血圧が100以上となり、黄連解毒湯EXを開始。黄連解毒湯EXにてそれまであった肩凝りは改善したが、血圧は変わらず、150~160/100↑mmHgとなり、金匱会診療所初診となる。
降圧剤は服用していない。
現証:特に症状はない。
身長170cm、体重75kg。やや赤ら顔。
脈:沈、弦。
腹力中等度、右胸脇苦満あり。
初診時血圧164/110
経過:初診時:柴胡加竜骨牡蛎湯合黄連解毒湯加甘草2.0釣藤5.0黄耆3.0(去大黄)
2週間後:血圧 160/100 前方に印度蛇木1.0g加味
4週間後:血圧138/86 家でも130~140/90位だったという。
6週間後:136/86 体調良好
2ヶ月後:132/86
3ヶ月後:128/86
4ヶ月後:132/84
同方継続中。体調も良好。
この症例のように高血圧にたいして漢方治療が有効な場合、血圧が下がると同時に疲れにくくなるなど体調が改善してくることが普通にみられます。
金匱会診療所ではそれぞれの患者さんに適した薬方に、必要な生薬を加味して用いることにより高血圧に有効な治療を行えますが、漢方治療でもエキス剤ではなかなか満足な効果が得られない場合も多く、この場合には降圧剤との併用も考えなければなりません。
また、高血圧の治療を行う場合には、体重を増やさないこと、塩分を取りすぎないことなどの生活面の養生は当然必要となります。
金匱会診療所所長
山田享弘