漢方治療の実際
★月経困難症★
月経困難症は、月経に際し、腹や腰が激しく痛んだり、頭痛や嘔吐が激しく起こるものなどがあります。治療に当たっては、症状および虚実にしたがって証を判断し、方剤を決めますが、多くの場合は駆瘀血剤と呼ばれる、漢方で瘀血と呼ばれる病態を治す方剤が用いられます。
月経困難症に頻用される処方
実証
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう):強度の月経痛があり、右下腹部に強い圧痛と抵抗が認められる。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう):のぼせ、頭痛、強度の月経痛があり、左下腹部に小腹急結と呼ばれる、擦過痛が認められる。
中間症
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):中間症の婦人科疾患では最も頻用される。
折衝飲(せっしょういん):月経時の腰痛、腹痛などが激しい場合に用いる。
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう):過多月経など、出血の多い場合に用いる。
虚証
加味逍遥散(かみしょうようさん):不安、不眠、イライラ感などの精神症状や、種々の不定愁訴に用いる。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):虚証で冷え性に用いる。水毒の症状(めまい、頭痛、むくみなどに用いられる。
<月経困難症の虚弱な女性に当帰芍薬散合人参湯>
~「漢方の診察と治療」山田光胤著より~
症例 30才 女性
胃腸が弱くて、どうかするとすぐ下痢したり、胃痙攣を起こしたりする。また、始終咽頭痛があり、月経になるときまって扁桃炎が起こり、月経痛を伴う。また、寒冷じんましんが時々出るともいう。
挙子1人、妊娠中絶1回
色の白いやや痩せ型の婦人。脈は沈細。腹部は、腹力弱、心下部に軽度の振水音をみとめ、上腹部で両側の腹直筋がやや緊張し、臍の右側に圧痛がある。
咽頭の発赤を目標に、まず駆風解毒湯加桔梗石膏を用いたが、数日後に扁桃炎を起こして発熱し、臥床した。その後も1週間近く寝汗が止まらないというので、柴胡桂枝乾姜湯を用いたところ、一晩で寝汗が出なくなった。そして10日後に月経が来たが、いつものような腹痛も腰痛も起きなかったという。しかし、約1ヶ月後、咽頭痛が起きて抗生物質を服用しているというので、再び駆風解毒湯加桔梗石膏と人参湯の合方に変えた。
10日後、咽頭痛は鎮痛したが、月経になったらじんま疹が出た。そこで、加味逍遥散加荊芥2.0g石膏6.0gとした。
これで、じんま疹は1~2日で消退し、月経痛も起きなかったが、薬が変わってから下痢をするというので、加味逍遥散が合わないのではないかと考え、2週間後に、当帰芍薬散合人参湯に変えた。
こうして3週間後には、咽頭痛も発熱も起きず、便通は軟便だが体調はよいというので、この処方を続けることにした。以来5ヶ月を経ているが、扁桃炎、咽頭痛、発熱、月経痛などは起きていない。ただ、1回だけ風邪で37.5度になったので、この時は参蘇飲を4~5日服用させた。
いずれにしても、全体として、非常に元気になったようである。
金匱会診療所所長
山田享弘