漢方治療の実際

★ 糖尿病

 糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが不足するか、またインスリン抵抗性などによっておこる、インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態きたす疾患です。
糖尿病は特別な自覚症状が無いことが多く、長時間の放置により種々の合併症が発現してきます。合併症としては、糖尿病性網膜症による失明、糖尿病性腎症による腎不全・人工透析、糖尿病性神経障害による四肢のしべれ、疼痛などが代表的な者ですが、それ以外にも動脈硬化による種々の疾患が惹起されます。
漢方では人参、五味子、麦門冬、地黄など種々の生薬に血糖降下作用が認められており、それらの生薬が配合された処方で血糖のコントロールを行いますが、それでも血糖の降下が充分でない場合には西洋薬との併用が必要になります。
それよりもむしろ糖尿病に対する漢方治療では、それぞれの患者さんの証にあった薬方による、合併症の予防、糖尿病および合併症による自覚症状の改善ということが求められます。


         糖尿病に汎用される漢方処方

      実証

   大柴胡湯(だいさいことう)
 季肋部に抵抗圧痛(胸脇苦満)があり、肥満、肩こり、便秘の傾向がある。
     
   防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
 固太りで、太鼓腹、便秘の傾向がある。

   白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
 強い口渇があり、のぼせ、あつがりで多飲、多尿の傾向がある。


      中間症

   小柴胡湯(加地黄)(しょうさいことう・かじおう)
 体力体格中等度で、胸脇苦満がある。

   六味丸(ろくみがん)
 疲労感と尿利の減少があり、下腹部の腹壁の緊張が弱い(小腹不仁)


      虚証

   麦門冬飲子(ばくもんどういんし)
口渇、皮膚の乾燥がある。

   清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
頻尿、残尿感などがあり、胃腸が虚弱。神経過敏の傾向がある。

   四君子湯(しくんしとう)
胃腸虚弱、食欲不振、倦怠感があり、体力が衰え痩せてきた。

      陰証

   八味地黄丸(はちみじおうがん)
夜間頻尿、腰痛、腰から下の冷えやしびれがあり、小腹不仁のあるもの。

   十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
疲労倦怠感がつよく、貧血の傾向があり、皮膚の乾燥の傾向がある
もの。



                                           金匱会診療所所長
                                                 山田享弘