漢方治療の実際

★ アトピー性皮膚炎の漢方治療

 漢方では皮膚疾患を治療する場合も、他の疾患を治療する場合もその基本は同じす。患者さんの陰陽、虚実を漢方の四診(望診、聞診、問診、切診)により判定し、陰陽虚実にあった薬方群の中から患者さんの症状に適合した薬方を選択していきます。

 そして皮膚疾患の場合には、皮疹の状態を乾性と湿性に分け、そのおのおのを陽症と陰証に分類します。つまり皮膚疾患の治療では、全身の陰陽虚実にあった薬方の中で局所の陰陽乾湿に適合する薬方を判定し、投与することになります。この時、全身と局所の陰陽虚実が合わない場合は基本的に全身状態を優先します


      皮膚疾患における陰陽の判別

     〔陽証〕
全身状態:顔色が赤い。暑がり、熱感がある。手足が暖かい。行動的で活動的。
脈:浮、数。
皮膚症状: 局所の発赤が強い場合が多く、赤味は紅色または真赤で、青味や黒味を帯びない。局  所の熱感が強い。浸出液のある場合は、分泌物が濃厚で痂皮形成を認めるものが多い。

    〔陰証〕
全身状態:顔色が青白い。寒がり、冷え性、手足が冷える。行動に活気がない。
脈:沈、遅。
皮膚症状:局所の発赤は弱い場合が多いが、発赤の強い場合でも赤味の中に青味、黒味を帯びて暗紫色になる場合がある。局所の熱感が弱く、発赤があっても冷えを訴える場合がある。浸出液のある場合は、分泌物が稀薄で、痂皮形成は認めないことが多い。


なぜ、このように同じ疾患なのに陰証、陽証に弁別するかというと、陰証、つまり身体に冷えがあり、新陳代謝が衰えているような人には、身体を温め、体力を補ってゆくような薬を用いることによって、治癒力を高め、病気を治してゆくことが必要であるし、陽証、つまり身体に熱があって、炎症の強い人には、熱を冷やし炎症を抑えてゆくことが必要であるからです。このように、同じアトピー性皮膚炎でも、その患者さんが陰証であるのか、陽証であるのかによって治療が全くことなるわけで、ここを弁別する力がが漢方を行う医師には必要になります。また同じ陽証のアトピー性皮膚炎であっても、虚証、つまり体力が弱く、胃腸も弱いような人と、実証、つまりた体力体格のがっしりした人では使う薬が違ってきます。

 
 陰証のアトピー性皮膚炎:十全大補湯加味

  
治療前              治療2ヶ月後

 陽証のアトピー性皮膚炎:白虎加桂枝湯加味
  
治療前              治療2週間後


       アトピー性皮膚炎の頻用処方

実証    黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
       白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)(合四物湯加荊芥連翹)
       白虎加黄連湯(びゃっこかおうれんとう)(白虎湯加黄連)
       越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
       消風散(しょうふうさん)

虚実間証 温清飲(うんせいいん)
       荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
       治頭瘡一方(ぢずそういっぽう)
       葛根湯加石膏(かっこんとうかせっこう)
       十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
       桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)

虚証    桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)(加荊芥、連翹)
       小建中湯(しょうけんちゅうとう)
       黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
       加味逍遥散(かみしょうようさん)(合四物湯)

陰証    十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
       附子剤(真武湯、桂枝加黄耆湯加附子、等)


                                           金匱会診療所所長
                                                 山田享弘