薬草のお話 3


第21回:平成11年1月    金銀花(キンギンカ)

 金銀花は、花が初め開いたとき白色で二三日後に黄色となり、新旧相混じって黄白相映ずるものだからこの名がある。別名、忍冬(にんどう)とあるが、これは冬を凌いで凋まぬところからきていると、梁(りょう)の時代の名医別録に記載がある。
 金銀花はスイカズラ科(Caprifoliaceae)のスイカズラ Lonicera japonica THUNB. の花蕾を乾燥したものを用いる。
 金銀花は炎症を去り、熱を下げ、尿の出をよくする効果があるので、熱感の多い風邪、咽喉疼痛、血便、化膿性の腫れ物、梅毒などに用いられる。また、抗菌作用も報告されている。
金銀花を含む主な処方としては、治頭瘡一方(ぢずそういっぽう)、托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)、仙方活命散(せんぽうかつめいさん)、銀翹散(ぎんぎょうさん)などがある。
金銀花は葉が混じってなく黄色が多く、香気の良い新しいものがよい。産地は専ら中国で、河北、河南、山東、江蘇、広東、広西、遼寧省などが主産地である。(針ヶ谷哲也)



第22回:平成11年2月   呉茱萸(ごしゅゆ)

呉茱萸は今から250年ほど前に中国から日本に入ってきました。その生薬が山椒に似ていることから、唐の国の山椒の意味で、カラハジカミとしました。ハジカミとは山椒のことです。
 中国での呉茱萸の由来は、茱萸には南北すべてあるが、薬に入れるには呉の地のものをよしとしているところからきています。
 呉茱萸はミカン科(Rutaceae)のゴシュユ Evodia rutaecarpa BENTH. およびホンゴシュユ E. rutaecarpa BENTH. var. officinalis HUANG の未成熟な果実を乾燥したものです。
 呉茱萸は体を温める薬で胃を健やかにし、嘔吐を止め、頭痛を治し、気の上衝(冷えのぼせ)を治します。
 呉茱萸の入った処方には呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、温経湯(うんけいとう)などがあります。
 呉茱萸は特異の香気があり、味が極めて辛いものが良品です。また、呉茱萸は六陳の一つで、やや古いものを良品とする説があります。
産地は専ら中国で湖南、浙江、広西、雲南省などです。(針ヶ谷哲也)

 

第23回:平成11年3月   杏仁(キョウニン)

 アンズは私たちの食生活でなじみが深いものです。例えば果肉はお祭りの時に出店で売られているあんず飴や、スーパーで売られているあんず棒など、種子は中華料理に出てくる杏仁豆腐(アンニンドウフ)に使われています。また、漢方でもその種を杏仁と称し使います。
 杏仁はバラ科(Rosaceae)のホンアンズ Prunus armeniaca L. およびアンズ P. armeniaca L. var. ansu MAXIM. の種子を乾燥したものです。
杏仁は鎮痛、鎮咳、利尿、通便の効果があり、風邪(咳)、喘息、呼吸困難、疼痛、浮腫、便秘などに応用されます。また、民間ではアンズはアンズ酒として疲労回復に用いられます。
杏仁の配合されている処方には麻黄湯(まおうとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、清肺湯(せいはいとう)、麻杏ヨク甘湯(まきょうよくかんとう)(ヨクの字はクサカンムリに意)、茯甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、潤腸湯(じゅんちょうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)などがあります。
杏仁は粒が揃っており、円実豊富で、味苦く、採集してからあまり時間のたっていないもの(油の酸化していないもの)が良品です。
杏仁の産地は中国(華北、内蒙古、甘粛、遼寧、河北、吉林省)、北朝鮮です。
(針ヶ谷哲也)



第24回:平成11年4月   山茱萸(さんしゅゆ)

サンシュユは別名ハルコガネバナといわれるように、3月頃に明るく、美しい黄色の花を咲かせます。そして10月頃に赤く熟した実を結びます。この果実の種子を取り除き日干しにしたものを山茱萸と称し、生薬として用います。
 山茱萸はミズキ科(Cornaceae)のサンシュユ Cornus officinalis SIEB. et ZUCC. の種子を出来るだけ抜き取った果肉を乾燥したものです。
山茱萸には滋養、強精の効があり、腰部の脱力、疼痛、小便頻数を治します。
 山茱萸の配合されている処方には八味地黄丸(はちみじおうがん)、六味地黄丸(ろくみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、滋陰地黄湯(じいんじおうとう)、七賢散(しちけんさん)などがあります。
山茱萸は果肉が厚く、色が朱紅色〜紫黒色で、味が酸っぱく、潤いがあるものを良品とします。産地は中国(浙江省、河南省)、韓国です。(針ヶ谷哲也)



第25回:平成11年5月   細辛(さいしん)

 ウスバサイシンは4〜5月頃に2枚の葉の間に、地味ですが淡紅褐色の壷型の花を咲かせます。ウスバサイシンは山合いの陰地に自生する多年草で、根茎及び根を細辛と称し、漢方薬として使用します。
 細辛はウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)のウスバサイシン Asiasarum sieboldi F.Maekawa 、ケイリンサイシン A. heterotropoides F.Maekawa var. mandshuricum F.Maekawa の根茎及び根を乾燥したものです。
 細辛は体を温め、気を下し、痰を破り、水を利し、頭痛、関節痛、鼻閉を治し、鎮咳の効果があります。
 細辛の含まれている漢方処方には、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、立効散 (りっこうさん)などがあります。
 細辛は根が細く、匂いが強く、辛いものを良品とします。細辛の産地は中国(遼寧省)、韓国、北朝鮮などです。(針ヶ谷哲也)



第26回:平成11年6月   黄蓍(オウギ)

良く使用される漢方薬の中に黄耆という生薬があります。この植物は日本にはほとんど自生していませんので、薬草園でしか見ることしかできません。又、黄耆と同じ仲間で晋耆(しんぎ)という生薬があり、これを黄耆の代わりに使用する場合があります。
 黄耆はマメ科(Leguminosae)のキバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge 或いはナイモウオウギ A. mongholicus Bunge の根です。又、晋耆は多序岩黄耆 Hedysarum polybotrys Handel Mazzetti の根です。
 黄耆の薬効としては強壮、皮膚の栄養を良くする、血圧降下、関節の痛みを取り除くなどがあります。特に皮膚疾患には黄耆よりも晋耆のほうが良いみたいです。
 黄耆の含まれている処方には防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、七物降下湯(しちもつこうかとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などがあります。
 黄耆は質が緻密で柔軟、甘みがあり、ねっとりしたものを良品とします。産地は中国の山西、内蒙古、吉林、黒龍江、遼寧、河北、陝西省が主です。
(針ヶ谷哲也)



第27回:平成11年7月   半夏(ハンゲ)
 

 半夏はその形容から中国では別名水玉とも名付けられています。又、半夏とは礼記(らいき)の月令(げつれい)に『五月半夏生ず』とあり、これは夏の半に相当するという意味だそうです。日本では別名へそくりといわれ、これは昔農婦が孫の子守をしながら、畑の雑草であるカラスビシャクの球茎を掘り、小遣い稼ぎをすることがあったためだそうです。
 半夏はサトイモ科(Araceae)のカラスビシャク Pinellia ternata Breitenbach のコルク層を除いた塊茎です。
半夏は嘔吐(おうと)を治し、咳を止め、痰を去り、喉の痛みを去り、尿の出をよくし、胃のつかえを去る効果があります。
半夏の含まれる処方には小柴胡湯(しょうさいことう)半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、小青竜湯(しょうせいりょうとう)、小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、麦門冬湯(ばくもんどうとう)、六君子湯(りっくんしとう)、竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)などたくさんあります。
 半夏は粒が大きく、外面が純白色で、質の充実したものが良品です。産地は中国、韓国、日本ですが、主に中国の四川、湖北、河南、貴州、雲南、安徽、浙江、江蘇、山東省などで生産されます。
(針ヶ谷哲也)



第28回:平成11年8月   当帰(トウキ)

 当帰は中国の古い書物によれば、妻が婦人病を患い子供が出来ないので夫が家によりつかず、困った妻がこの植物の根を煎服して病気が治り『恋しい夫よ当に我が家に帰るべし』といったことから当帰の名が生まれたとされています。しかし、現在日本で当帰と呼ばれている植物は中国の当帰とは違う別の種類とされています。
当帰はセリ科(Umbelliferae)のトウキ Angerica acutiloba Kitagawa 又はホッカイトウキ A. actiloba Kitagawa var. sugiyama Hikino の根を通例湯通ししたものです。
当帰は身体を温め、血を増し、血の鬱滞を去り、強壮、鎮痛、鎮静の効果があり、川きゅう(センキュウ)、芍薬とともに婦人の良薬として広く用いられています。
当帰の含まれている処方には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)温清飲(うんせいいん)、四物湯(しもつとう)、当帰飲子(とうきいんし)、当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)などがあります。
 当帰は柔軟(潤いがあり)にして芳香があり、味は甘く、やや辛いものを良品とします。産地は奈良県、北海道、群馬県、岩手県、青森県などです。   (針ヶ谷哲也)



第29回:平成11年9月   川キュウ(せんきゅう)

 センキュウは中国原産の多年草で、日本には江戸時代の初期に薬用として入ってきたものです。全体にセロリを甘くしたようなのような独特の香りがあり、秋の初めに白色の小さな五弁花を散形につけます。
川キュウはセリ科(Umbelliferae)のセンキュウ Cnidium officinale Makino の根茎を、通例、湯通ししたもので中国産センキュウとは異なります。
 川キュウは補血、強壮、鎮静の効があり婦人病、皮膚病、頭痛、関節痛などに応用されます。
 川キュウの含まれている漢方処方には十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、消風散(しょうふうさん)、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、抑肝散(よくかんさん)、四物湯(しもつとう)、キュウ帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)、酸棗仁湯(さんそうにんとう)、大防風湯(だいぼうふうとう)、治打撲一方(じだぼくいっぽう)などがあります。
川キュウは肥大し、充実して重く、味はわずかに苦く、芳香性の強いものが佳いものです。産地は北海道が主で、その他奈良県、岩手県、青森県、宮城県などです。(針ヶ谷哲也)



第30回:平成11年10月   柴胡(さいこ) 

 江戸時代上方から東下りをする旅人は、東海道の三島の宿に立ち寄って、生薬の柴胡を買い求めるのが、ならわしのようになっていたそうです。これは他の地のものにくらべて品質が良いというのが評判だったからです。三島の薬種問屋に持ち込まれる柴胡は、伊豆の草原地帯の山々に野火を放って、山焼きをしてから掘り出したものと云われています。その当時から柴胡は全国各地で生産されていましたが、三島産が特に有名だったので、自然に植物名もミシマサイコの名で呼ばれるようになったそうです。
 柴胡はセリ科(Umbelliferae)のミシマサイコ Bupleurum falcatum Linne の根です。
柴胡は肝臓の機能を調整し、解毒、解熱、鎮静の効があり、肝炎、風邪、咳、皮膚病、痔、各種ストレス疾患などに応用されます。
 柴胡の含まれる漢方処方には小柴胡湯(しょうさいことう)、大柴胡湯(だいさいことう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、加味帰脾湯(かみきひとう)、乙字湯(おつじとう)、竹E温膽湯(ちくじょうんたんとう)、滋陰至宝湯(じいんしほうとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などその他多くあります。
柴胡は質が柔軟で潤いがあり、特異脂肪様の臭いがあり、味は緩和で、やや苦いものが良品です。産地は宮崎県、鹿児島県、熊本県、茨城県、奈良県などです。また、ミシマサイコを中国で栽培したものも流通しています。(針ヶ谷哲也)



第31回:平成11年11月   枳実(キジツ)

 ダイダイはヒマラヤ原産で、昔中国から入ってきました。暖地で栽培されますが、冬になると果実は橙黄色になります。冬を過ぎても果実をそのままにしておくと、秋に緑色になり枝をつけたまま2〜3年は落ちません。代々実がついているのでダイダイの名が付いたとされています。生薬としては成熟した果皮を橙皮(とうひ)、未熟果実を枳実、枳殻(きこく)と称して使用します。枳実と枳殻は採集時期(成長度)によって分けられます。
 枳実はミカン科(Rutaceae)のダイダイCitrus aurantium Linne var. daidai Makino. Citrus aurantium Linne 又はナツミカン Citrus natsudaidai Hayata の未熟果実をそのまま又はそれを半分に横切りしたものです。
枳実は胃を健やかにし、痛みを鎮める効があり、胆石、胸腹部の膨満、便秘、咳、皮膚病、化膿などに応用されます。
 枳実の含まれる漢方処方には大柴胡湯(だいさいことう)、四逆散(しぎゃくさん)、茯苓飲(ぶくりょういん)、小承気湯(しょうじょうきとう)、大承気湯(だいじょうきとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、通導散(つうどうさん)、参蘇飲(じんそいん)、竹茹温膽湯(ちくじょうんたんとう)、清肺湯(せいはいとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)、排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)などがあります。
枳実は皮が厚く、青黒色で、香気が強く、味が苦いものを良品とします。産地は日本(愛媛県、広島県、和歌山県)、中国、韓国ですが、韓国産は原植物が異なるので日本では認められておりません。(針ヶ谷哲也)



第32回平成11年12月   山椒(サンショウ)

七味唐辛子の原料の一つとして知られている山椒は、中国の古い書物の中では蜀椒(しょくしょう)、川椒(せんしょう)の名で収載されています。
 山椒はミカン科(Rutaceae)のサンショウ Zanthoxylum piperitum DC. またはその他同属植物の成熟果皮で、果皮から分離した種子をできるだけ除いた物です。また、山椒の黒い種子は椒目(しょうもく)と呼ばれ薬効が山椒とは異なります。 山椒は特有の気味で身体を温め新陳代謝機能を亢進させ、胃を健やかにし、腹痛を治し、ガスの排出を良くし、蛔虫を駆除する効果があります。
 山椒の含まれる漢方処方には大建中湯(だいけんちゅうとう)、中建中湯(ちゅうけんちゅうとう)、解急蜀椒湯(かいきゅうしょくしょうとう)、当帰湯(とうきとう)、麗澤通気湯(れいたくつうきとう)などがあります。
 山椒には同属の植物が多く存在しますが味が辛く、香気の強いものを良品とし、年を隔て気味の脱した物は用いません。産地は日本(福井県、和歌山県、奈良県など)、中国です。(針ヶ谷哲也)