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蘇民将来は人の名ですが、蘇には「甦る」という意味があり、正月の3が日に飲む薬酒「お屠蘇」に蘇の字が使われ、年初めに飲むと一年中の邪気が払われ、延命の効果があるとされています。 日本では嵯峨天皇の弘仁年間(810〜823)から宮中でお屠蘇が用いられ、江戸時代以来庶民の内に広まりました。 蘇の字の付く生薬に紫蘇がありますが、紫蘇はお屠蘇には配合されていません。 紫蘇は鬱陶しい時に気分を爽快にし、人を甦らす働きをする作用があるので、この字を充てています。 その他の作用としては軽く発汗する作用があり、風邪の時や、心身症や神経症の諸症状に使用する薬方に配合され、また魚や貝・蟹の中毒に単独でも用いられます。 原植物はシソ科のシソで、葉の色をみると背面の青い片面シソ、両面の青い青シソ(通称おおば)、表裏ともに紫色の紫蘇などいろいろありますが、紫の多い方が良く効くというので、代表してシソ(紫蘇)と言われています。 シソは最初、種から採れるシソ油が灯火用に用いられ、その後ナタネ油に取って代られますが、油を採るためにシソの栽培が盛んに行われたので、油以外の利用が工夫され、梅干・しば漬けなど加工食品に応用されました。 あの紫蘇の独特の香りはペリラアルデヒドで強い防腐力があります。 紫蘇の匂いから梅干の酸っぱい味を連想するから面白いですね。(小根山隆祥) |
勝負事で弱い相手に対して、よく使われる言葉です。組しやすい相手・利用しやすい好人物に対しても『鴨にする』『いい鴨』などと使われています。 江戸時代の食べ物の本草書「本朝食鑑」では鴨は肉が美味で、体を温める はたらきがあり、下痢を止め、腹の中の蟲を殺し、おできを治し、また寒さが原因のしびれを毎日食べて治したと記載されています。 鴨が背負ってきた葱も「本朝食鑑」には咳の出る感冒で頭痛や汗の出ない場合に味噌で飯と葱を煮て粥を作り、熱い内に食べて汗を取ると良いとあります。 民間療法でも風邪の初期に新鮮なネギの白い部分を細かく刻み、生味噌に合せて煮立て、熱い内に服用する『ネギ味噌療法』が有名です。 また、歯の痛いとき、ネギの白い部分を3センチぐらいに切り、痛む歯の間で噛んだり、咳や咽の痛いとき、ネギを湿布したり、痔やしもやけの治療にネギを煎じた液で洗ったり、罨法したりする民間療法もあります。 因みに、漢方でもネギの白い部分を『葱白』といい、納豆の一種『香』と配合した葱湯が頭痛や悪寒などに用いられています。 乾姜・附子と配合した白通湯は虚弱な人が冷えによってひどい腹痛・下利を起こした時に用いられています。 冬の寒い晩に葱を背負ってきた鴨を料理して、風邪を引かぬように予防しましょう。 |
桃源郷の話は武陵の漁師が谷川をさかのぼり、桃の花の林に迷いこみ、美しい村で歓待され、帰ってきたが、その後誰も再びその土地を訪ねる事ができなかったという中国 六朝時代の詩人 陶淵明の「桃源記」に由来します。 古くから中国ではモモは特別な霊力を持つ果樹として信じられており、 「山海経」「漢武故事」「西遊記」などの書物に記載されています。 モモの材を用いた魔よけの札である桃符や桃板などは中国の民衆に呪物として用いられていました。 モモの堅い種殻をぽんと左右に二つに割るときの離れる様子を『兆』であらわし、木偏と兆とで桃という字が出来上がりました. おとぎ話桃太郎の誕生のように、桃の果実中の核が二つに割れ、仁が中からでてくるのが妊娠による生命の誕生を意味するとしています。 その仁を桃仁といい、漢方では主に月経不順・更年期障害などの婦人疾患、打撲傷、神経症などの血液循環障害の薬方に配合されます。 種仁ばかりでなく、白い花・モモの葉も薬にされます。 白い花は白桃花といい、花及び蕾で瀉下・利尿作用がありますが、作用が強いので妊婦や虚弱な人には適しません。 モモの葉は鎮咳やボウフラの殺虫に民間で使われておりますが、特に有名なのはアセモの浴湯料で、湿疹・かぶれ・荒れ性などに応用されます。 |
内藤さんは下り藤』と続く。いいなれた言葉を語尾と頭を続けるだけで長く並べる江戸時代からの子供の遊び歌です。 今の東京新宿区にある新宿御苑が高遠藩内藤家の下屋敷の跡です。 明治になって農業試験場が置かれ、後に宮内省、現在は環境省の所属になって、東京都民の国立の庭園です。 その内藤家の家紋が藤原氏の系統で『下り藤』です。 植物のフジも下がり花です。 落葉のつる性植物でナツフジ・ノダフジ・ヤマフジなどの種類がありますが、全ての種類が春の季節なるとに蝶の形をした花を房状につけて垂れ下がっており、花の色は紫色も白色もあります。 ナツフジ・ノダフジは茎(つる)が右巻き、ヤマフジは左巻きです。 1708年頃の「大和本草」に『葉若きとき食うべし。花は春の末より四月に咲きかかる。花の長さは3尺にみつる有り。其の実を炒って酒に入れれば酒敗れず』と有り、防腐剤として使われていたようです。 1803年の「本草綱目啓蒙」には『---つる甚だ大にして木の如し、処所にこぶがあり。フジこぶと言う』と。その藤こぶを刻み、粉末にした物が制がん(胃がん)によいといわれています。 硬いものは硬いものを治すという考え方があり、ヒシの実やf苡仁も硬いのでがんの民間薬に使われていますが、これから研究されるべき点でしょう。 フジに藤を当てているのは日本製の漢字です。 |
似ている諺は『隣の芝生』『内の鯛より隣りの鰯』『隣りの花は赤い』など多いようです。 一般にムギと言われているのはイネ科のオオムギ・コムギなどムギ類の栽培植物の総称です。 オオムギは西アジア。コムギは中央アジアが原産地で日本へは古くから渡来し、縄文時代晩期 熊本・静岡の遺跡にオオムギが出土。コムギは弥生時代前期の福岡・山口の遺跡で発見されています。 平安時代の薬物書「本草和名」にはこれらムギ類はオオムギの和名『布止牟岐』コムギの和名『古牟岐』となっています。 漢方薬に配合されるのはコムギの方で、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という薬方が有名です。甘草・小麦・大棗の3味で、食品として使われている者の組み合わせです。 甘草は甘茶の代用、醤油の添加物、キャンデーに少量使われ、大棗は木の実ナツメです。 甘麦大棗湯は『婦人蔵躁 喜悲傷 欲哭 象如神霊所作 欠伸』と金匱要略に記載されおり、不眠症・自律神経失調症・ヒステリー・癲癇発作に応用されています。 「新約聖書」のヨハネ伝に生命のシンボルとして、ムギが取り上げられているのはパンを主食とするヨーロッパの人人の生活習慣に由来しているのでしょう。(小根山 隆祥) |
瓢箪は細い口を持ち、奥のほうは膨れた中空の入れ物ですが、「舌きり雀」をはじめ、瓢箪の中からいろんな宝物が出てきた昔話は日本の各地に残されています。 ヒョウタンそのものも、凡そ1万年前の縄文時代前期の遺跡に器として加工されたらしいヒョウタンの果皮が出土しています。 ヒョウタンは熱帯アフリカ原産といわれていますが、エジプト・タイ・メキシコの遺跡にも紀元前1万年から3000年頃出土しているので、既に太古の時代に広まったようです。 ヒョウタンはウリ科のユウガオ属に属し、ユウガオ・ヒョウタンは同じ仲間です。 ユウガオは果肉が甘く、若い果実の果肉から干瓢(かんぴょう)が作られます。 ヒョウタンは果肉が苦く、果皮が乾燥し堅くなるので器物として利用されます。 福岡県地方では胸の痛みにヒョウタンを煎じて内服し、新潟では腎臓炎にユウガオの根を煎じて飲用している民間療法が報告されています。 ウリ科の植物にはユウガオ属のほかにトウガン属、キュウリ属、トウナス属、 |
反対の諺が『山椒は小粒でぴりりと辛い』にあたるでしょう。 ウドは日本では北海道から沖縄まで山野に自生し、草丈は2メートルにもなる大型のウコギ科の多年草です。 漢方薬で有名な朝鮮人参もウコギ科です。 ウドは古くから山菜として若い茎が食用にされていますが、江戸時代になると畑で栽培されるようになりました。 ウドはセリやフキノトウとともに春の香りを送ってきますが、歯ざわりのよさも春の料理の王様です。 ウドの根を朝鮮半島では解熱・強壮に、日本ではウドの根茎を和独活と言い、側根を和エ活と言っております。中国産の独活・羌活はセリ科の植物です。 日本の市場には日本産・中国産 両方の独活が流通しており、通常、但単に独活といえば、日本産の(和)独活をさし、中国産を唐独活といって区別しています。 共に、解表・去風湿・止痛の働きがあり神経痛や皮膚疾患・感染症などに使われる薬方に配合されます。 |
人の血筋は替えられない。言い換えれば、平凡な親からは天才児は生まれないことの譬え。 原因と結果が対応する諺の分野で、同例の諺は『蛙の子は蛙』『燕雀 鳳を生まず。』がありますが、バイオテクノロジ−の発展で、ウリ科のカボチャやユウガオを台木にして、スイカの苗を接木すると病気にかからない丈夫な果実を作るという野菜園芸を見る事ができます。 キュウリは野菜としてスーパーマーケットや台所でお馴染みですが、民間薬としても広く使われています。 火傷にはキュウリから出る水、またはキュウリを砕き取った水を塗れば、疼痛がとまる。暑気あたりにはキュウリ一本を大根卸しで擂り、之を足の裏につける。腎臓病には種を去って陰干しにしたキュウリを煎じ内服する。などがあります。 キュウリにはからだの熱をとる働きがあるようです。 反対の諺は『鳶が鷹を産む』 |
インド・マレーなど熱帯アジアの原産地と考えられているショウガはショウガ科の多年草の根茎で、日本には古い時代に南方から直接渡来したらしく奈良時代には国内で栽培もされています。 古い名は『はじかみ』で、茎の端が赤い色をしていて端赤みからとか、 かじると顔を顰(しか)めるほど辛いからと、少し眉唾な語源説でもありますが、ともかく辛いのが特徴のショウガです。 しかし、ショウガの品種には辛味の弱いのと強いのとがあります。 辛味が弱く、甘い系統のショウガは食品としてすし屋のガリ、とり・豚・牛・魚などの料理で生臭さを取る大切な薬味、またうどん・湯豆腐・甘酒の香辛料になくてはならない品物です。 漢方でもなくてはならない生薬で、発汗・健胃・止嘔など多くの薬方に辛い品種のショウガが使われています。 ショウガをそのまま乾燥すると(乾)生姜、ショウガを蒸して乾燥した者を乾姜といいます。 生姜は体の中の余分な水分を取り去り、乾姜は身体を温める働きが強くなります。 同じ原植物からの生薬でも作り方によって薬効が変わるのは興味のあることです。 |
米の原植物イネはインドないし東南アジアが原産地と考えられる一年草。 日本には古く弥生時代に中国南部から朝鮮を経由して北九州・近畿地方に渡来し、更に鎌倉時代には津軽地方に及び、明治時代には北海道でも栽培可能となりました。 農村では雨乞いや虫送り、刈り入れに至るまでの一年間。稲の農耕儀礼と密着している生活があり、更に収穫された米は其の大部分が主食の飯米用ですが、その他 酒・味噌・醤油・菓子などの原料となり、米ぬかは製油・肥料・飼料などに使われ、藁(わら)は飼料を始め縄・筵(むしろ)俵・民芸品などと衣食住の多方面に渡って利用されています。 現在、日本で栽培されているイネはモチイネとウルチイネです。 漢方薬に使われるイネはウルチイネで粳米といいます。 糖尿病・夜尿症・止痛などに使われる白虎湯という薬方に配合されます。 最近はイネの品種も改良され、茎が短くなって、種子が重くなっても頭が下がらなくなって茎が倒れにくい系統が求められているようです。 |
二八 十六文の掛け算で、蕎麦代金十六文を意味するという説。一番良いといわれている混合割合はソバ粉八分に小麦粉二分だとする説。逆にソバ粉二分の小麦粉八分だという悪口もあります。 そば切りはもともとそば粉だけで作るのが正統派で、これを生蕎麦と言い、殆んどの蕎麦屋ののれんに『生蕎麦』と書かれています。 そば粉のつなぎにはヤマノイモ・卵・ヨモギ・ヤマゴボウなどが使われます。 日本のソバの生産は北海道がトップで鹿児島・茨城と続き、『信州信濃の新ソバよりも』といわれる長野は6位。日本の総消費量の60%までがブラジル・カナダ・中国・インドなどからの輸入によって賄われています。 原産地については諸説が有りますが、中国雲南省が有力です。 ソバは畑地に栽培される一年草で、白い花が多いが赤い花もちらほらと見る事があります。5〜6月に播いて、7〜8月に収穫するのを夏ソバ。7〜8月の立秋前後に播いて10月頃に収穫するのを秋そば。秋早く収穫した『そば』は香気が強く『新そば』といいます。 食用以外にもそば粉に食塩小量を加えて、水でこね、腫れ物に直接貼り付ける民間薬や茎葉を焼き、灰を水につけて灰汁を作り、洗濯・洗髪に使用している利用もあります。 抗血管浸透薬であるルチンが全草に含有されています。 ルチンは水溶性で、そばを茹でた湯に溶け出すので、そばを食べた後には必ず蕎麦湯を飲んだほうが良いと思います。 |
ピンからキリとは初めから終わりまで、最上等のものから最下等のものまでをいいます。 桐の木の成長は早く、昔、女の子が生まれた時、キリの苗を記念に植樹しておけば、其の娘がお嫁に行く頃には立派な木になって、嫁入り道具の箪笥が出きるようになるといわれたものです。 中国か韓国かとキリの原産地は言われておりますが、実際のところは不明です。 ゴマノハグサ科の落葉高木で、材は軽く、くるいが少なく、耐湿耐乾性に富み、古くから家財道具や書画骨董の箱、琴の胴などの器具の材料として重宝されていました。 葉は大きく、白い毛が密生し、春 淡紫色鐘形の大きな花を房状につけます。 この葉と花を組み合わせて、家紋にデザインされたものが五七の桐(皇室) 五三の桐(民間)です。 キリの名は幹を切り倒すと、春には其の切り株からすぐに芽が出てくることに由来します。 キリの葉に小量の甘草を加えて煎じ、湯飲みに一杯づつ、2〜3回飲むと、乾いた咳に良いという民間薬があります。 |