アレルギーの漢方治療                                     
                          金匱会診療所所長  山田享弘


 現代医学の治療とは、種々の検査などで病気(病名)を診断し、その病気に対し決まった薬を使う、ということが基本です。
これに対し漢方による治療とは、まず、患者さんの種々の訴え(いろいろな症状の組み合わせ)と、脈診、腹診といった漢方の診断法を用いて、
その患者さん個人の体質、体力、病気の時期などを判定し、その漢方的診断(これを証と呼びます)に基づいて処方を決め薬を投与するというようになります。つまり、現代医学は病気に対する治療であるのに対し、漢方は病人に対する治療である、ということになります。

 アレルギー疾患に対する治療においても同じで、その人の体質、病態にあった漢方薬を飲むことによって、アレルギーの体質はあっても、それが病気としてでない状態を体に作り出す、とうことが治療の一つの目標となります。
たとえば、アトピー性皮膚炎に対して現代医学ではステロイド剤以外に効果のある薬剤はないといってもよく、ステロイド外用剤でいかに副作用が出ないようにアトピー性皮膚炎を押さえるかということが治療の目標となります。
これに対して、漢方でアトピー性皮膚炎を治療する場合は、漢方的な診断によりその患者さんの証を判定し、証に従って薬を決め飲んでもらうことより、出ている皮疹を押さえ込むのではなく、アトピー性皮膚炎が出ない状態を体に作っていくということが目的となります。
つまり、アトピー性皮膚炎の治療といっても漢方では皮膚の治療ではなく、その患者さん全体の治療を行う事になります。
 
 また、患者さん一人一人はみな体質が違いますので、アトピー性皮膚炎の薬という特別な物はなく、患者さんによっていろいろな処方を使うことになります。しかし、ある程度は使う薬の傾向がありまして、私は桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)という処方に荊芥(けいがい)、連翹(れんぎょう)といった生薬を加えたものをアトピー性皮膚炎の基本処方としています。
この桂枝加黄耆湯加荊芥連翹は、皮疹は軽く発赤し、乾燥、痒みを伴う典型的なアトピー性皮膚炎で、あまり体格体力が強くなく、特に体に冷えもないような状態の人に用います。
 また、体が非常に冷えやすく、皮疹も青みがかった色をしたような場合は体を温め補う作用のある十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などを使います。
 漢方治療を始めて効果が出始めるのは人によってかなり差がありますが、早い人で1〜2週間、遅い人でも3ヶ月以内には症状が変化してくるのが普通です。
1年以上きっちり漢方薬を飲んでもらえれば、殆どの場合かなり改善するのが普通です。