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91.〔補中益気湯〕(ほちゅうえっきとう)
〔出典〕弁惑論
〔処方〕人参、白朮 各4.0 黄耆、当帰 各3.0 陳皮、大棗 各2.0 柴胡、甘草 各1.0 乾生姜、升麻 各0.5
〔目標〕この方は古今医鑑内傷門に「中気不足、四肢倦怠し、口乾発熱、飲食味なきを治す。或いは飲食節を失し、労倦身熱、脈大にして虚し、或いは頭痛、悪寒、自汗、或いは気高くして喘し、身熱して煩し、或いは脈微細軟弱、自汗体倦し、或いは中気虚弱にして、血を摂すること能わず、或いは労倦して瘧利を患い、或いは元気虚弱にして風寒に感冒し、表を発するに勝えず、或いは房に入りて後感冒する者を治す」とある。
本方は中(脾胃、消化器系)を補い、気(元気)を益すという意味から名づけたもので、また補剤の王者として医王湯の名がある。小柴胡湯証の一段虚したもので、胸脇苦満や往来寒熱も軽く、食欲衰え、全体として元気のないものが目標である。
〔かんどころ〕津田玄仙は本方の応用目標として、(1)手足倦怠、(2)言語軽微、(3)眼勢無力、(4)口中に白沫を生ず、(5)食味なし、(6)熱物を好む、(7)臍のところに動悸がある、(8)脈は散大で力がない。これ虚候の目標で、その中のいくつでもあれば用いてよいといっている。
〔応用〕結核症・夏痩せ・病後の疲労・虚弱体質改善薬・食欲不振・虚弱者の感冒・痔疾・脱肛・子宮下垂・胃下垂症・陰痿・半身不随・多汗症・風邪ひき易き者・虚弱児体質改善。
〔治験〕虚労盗汗
27才の婦人、2年前に妊娠6ヶ月で自然流産し、こんど妊娠して3ヶ月になるが、つわりが始まって食欲不振、全身倦怠、夜中夥しい盗汗で、気味が悪いほどである。脈弱く、腹も弛緩し、顔色蒼白で貧血している。
補中益気湯1週間で、元気が出て、食欲進み、盗汗もすっかり止まった。その後引き続き服薬したが、流産することなく無事出産できた。
〔肺結核〕10才の少年、血色が悪く、食欲なくやせている。右肺浸潤といわれ休学し、ストマイの注射をしていた。ときどき背が痛み、不眠の傾向があり疲れ易く、脈腹ともに軟弱で、臍上の動悸が亢進している。補中益気湯を与えたところ、約6ヶ月すると血色よくなり、背の痛みもとれ、1年半休学して、2カ年服用したところ別人のようによい身体となった。(大塚敬節氏治験)
矢数道明