81.〔五積散〕(ごしゃくさん)
〔出典〕和剤局方
〔処方〕茯苓、白朮、陳皮、半夏、蒼朮 各2.0 当帰、芍薬、川キュウ、厚朴、白シ、枳殻、桔梗、乾姜、香附子、桂枝、麻黄、大棗、甘草 各1.2
〔目標〕
この方は気・血・痰・寒・食の五積(体内に五つの病毒の鬱積すること)を治すとう意味で名づけられたものである。
体質的に肝と脾が弱く、寒と湿に感じ、気血食の鬱滞を来して起こる諸病に用いられる。
和剤局方中寒門には、「中を調え、気を順らし、風冷を除き、痰飲を化す。脾胃宿冷、腹脇脹痛、胸膈停痰、嘔逆悪心、或いは外風寒に感じ、生内冷に傷られ、心腹痞悶、頭目昏痛、治肩背拘、肢体怠惰、寒熱往来、飲食進まざるを治す。及び婦人血気調わず、心腹撮痛、径行均しからず、或いは閉じて通ぜず、並びに宜しく之を服すべし」とある。
本方の適応するものは概して、顔色勝れず、上半身に熱感あり、下半身が冷え、腰、股、下腹などが冷え痛み、脈は一般に沈んで腹は軟らかいか、ときに心下に硬く張っている。
〔かんどころ〕
気・血・痰・寒・食の五積のうち、とくに寒を主とし、津田玄仙は、腰冷痛、腰股攀急、上熱下冷、小腹痛の四症を目標としている。
〔応用〕
本方は主として、急性慢性胃腸炎・胃痙攣・胃酸過多症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・疝気(腸神経痛)・腰痛・諸神経痛・リウマチ等に用いられ、また脚気・白帯下・月経痛・月経不順・冷え性・打撲傷・半身不随・心臓弁膜症・難産(酢を加える)・ヂフテリーの一症・奔豚症等に広く応用される。
〔治験〕
胃潰瘍と嘔吐
家兄矢数格が中学時代、マラリアに罹り、キニーネを服用してひどい胃障害を起こした。嘔吐やまず、飲食薬剤一切納まらず、羸痩その極に達し、遂に嘔血をみるに至った。大学病院を初め、諸専門医を歴訪したが、この頑固な嘔吐は治らず、死を待つばかりであった。このとき森道伯翁の漢方治療をうけ、奇跡的に治癒した。
そのときの処方が五積散で、繰り返した胃洗浄などによって、胃の寒冷と停飲とを招来していたもので、主治にある脾胃宿冷、嘔逆悪心に該当していた。本方三帖によって年来の嘔吐が全治し、その後鍼灸薬の三者併用により体力全く恢復し、医を志して漢方治療に従事するようになった。
矢数道明